ユリのおフランス歌曲プロムナード~ボードレール “秋の歌”、フォーレ仕立て(フランス料理風タイトル) ~
2017年 12月 14日BAUDELAIRE « Chant d’automne »
ボードレール “秋の歌”
Bientôt nous plongerons dans les froides ténèbres ;
Adieu, vive clarté de nos étés trop courts !
J'entends déjà tomber avec des chocs funèbres
Le bois retentissant sur le pavé des cours.
やがて我々はその冷たい闇に飛び込むことになるのだ
さらば、我らの夏の鮮やかな輝きよ、何と短かったことか!
私には既に聞こえている、葬送の調べが
中庭の石畳に落ちる木が響き渡っている
J'écoute en frémissant chaque bûche qui tombe ;
L'échafaud qu'on bâtit n'a pas d'écho plus sourd.
Mon esprit est pareil à la tour qui succombe
Sous les coups du bélier infatigable et lourd.
私は震えと共に聞いているのだ、薪が落ちる音を
断頭台を組み立てている時でさえ、あんなにくぐもった響きはしない
私の精神は疲れを知らない重々しい杭打ち機の打撃の下
崩れ落ちていく塔に似ている
Il me semble, bercé par ce choc monotone,
Qu'on cloue en grande hâte un cercueil quelque part.
Pour qui ? - C'était hier l'été ; voici l'automne !
Ce bruit mystérieux sonne comme un départ.
この単調な衝撃に揺られていると、
誰かが大急ぎで、柩に釘を打っているように感じられるのだ
誰のために?- 昨日までは夏だったのに、今は秋
この不思議な音はまるで旅立ちのように響いている
J'aime de vos longs yeux la lumière verdâtre,
Douce beauté, mais tout aujourd'hui m'est amer,
Et rien, ni votre amour, ni le boudoir, ni l'âtre,
Ne me vaut le soleil rayonnant sur la mer.
貴女の緑色に輝く切れ長の眼を愛している
甘き美しさよ、でも今日の私には全てが辛く苦い
貴女の愛も、貴女の寝室も、暖炉も全て
今の私には価値がないのだ、海に輝く太陽の他は!
なりきりボードレールで訳してみました(笑)。超訳ですので参考にはしないでくださいまし。
止むことのない陰鬱な薪を割る音がこだまし、やがてそれが自分の精神を蝕んでいくような鬱々とした詩です。からの!ボードレール独特のダンディズム。愛する人や暖かく居心地の良い親密な場所でさえ、今の俺にはダメなんだ、十分でないんだ、必要でないんだ、海に沈む、海に反射する黄金に輝く太陽の他にはーー(叫び)!的な。さすがボードレール、カッコいいです。
好きな人のカッコいいところ以外見たくない、という乙女心ありますね。私にはないので分かりませんが、フォーレにもあったのですよ、その乙女心♡
実はこの詩、続きがあります。(フォーレは冒頭の2節目もカットしていますが、最後の2節も
丸々カットしています。)
こんな俺を、それでも愛してくれ。
君の膝の上に頭を乗せて、夏を惜しみ、秋の光を味わうのを許してくれ。
といった内容。
割と甘えた感じで女性に頼っています。僕、秋が近づく音が陰鬱で嫌だったんだよ~、ねー、よしよししててね、秋もちゃんと見るし、その先も頑張るからー、と言わんばかり。
フォーレ、嫌だったんですね、ココ(笑)。カッコいいボードレールの弱さ、見たくなかったんだー、と一人ほくそ笑む。
ボードレール特有の憂鬱さ、それとダンディズム炸裂の、愛する女が傍にいても、俺の夏への、輝く生への渇望は止まらないし、何にもならないんだ、この気持ちを癒すのには!という雄々しさ。ここでストーップ!と声を上げたフォーレさん。ボードレールの憂鬱さと、女性に対する賛美、愛情、女性からしか得られない安らぎと言えるでしょうか、そのコントラストがバランスをとっている詩であるにもかかわらず、後半のバランスを取った部分、全カットです(笑)。
歌曲の冒頭、敷石に枯葉が舞い散る様子が見えるようです。歌詞を得てからはなんとなく重々しい虚ろな響きが聞こえてきます。それは絶え間なく鳴り続け、自分を弱め、そのうちに死の気配さえ漂わせ始めます。その不吉な音は強まるばかり。しかし曲の後半、意識が愛する人へと移ると拍子も変わり、癒しの美しすぎる旋律とハーモニーが。でもこれではダメなんだとなる頃、夕暮れ時の大海と太陽の壮大なイメージが広がり、何故だか益荒男(ボードレール)の海と太陽に向かう荘厳な後ろ姿(絶対逆光)が見えるような気がします(笑)。フォーレ、ボードレールを雄々しい男に仕上げました。
こんな妄想的な話ではなく、ちゃんとした詩の解釈、楽曲解説が聴ける講座が学習院大学で来週開催されます。