ユリの文学プロムナード~その⑯~
2013年 07月 24日日本の詩人では中原中也が断トツ好きです。好き過ぎて、小林秀雄が嫌いになったくらい。
中也の直筆の手紙が102通も展示されているというので、猛ダッシュで行く事にしました。
中也の好きな詩は、「月夜の浜辺」、「サーカス」、「一つのメルヘン」、「春日狂想」、「汚れっちまった悲しみに」、「心象」、「少年時」、「また来ん春…」、「帰郷」、「閑寂」、「夏の日の歌」、「秋の一日」、「いのちの声」、「冬の夜」等々、挙げればキリがない。本当にキリがない。それほど、私には大切な詩人です。
今は大暑。せっかくですので、中也の、昔日の夏の日を歌った詩をご紹介。
少年時
黝(あをぐろ)い石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡つてゐた。
地平の果に蒸気が立つて、
世の亡ぶ、兆(きざし)のやうだつた。
麦田には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だつた。
翔(と)びゆく雲の落とす影のやうに、
田の面(も)を過ぎる、昔の巨人の姿――
夏の日の午(ひる)過ぎ時刻
誰彼の午睡(ひるね)するとき、
私は野原を走つて行つた……
私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦めてゐた……
噫(ああ)、生きてゐた、私は生きてゐた!
中也展に話は戻りますが、その時代時代に、中也が見て刺激を受けたもの、感じたこと、希望、愛、焦り、失望、絶望といった彼の生の告白が綴られています。手紙の宛先は安原喜弘。中也の文学友達です。彼は中也の激しい気質をいつも慰めるような優しい存在だったのだと感じました。中也は彼の存在を頼りにしていたようにさえ思えます。こういう人が中也のそばにずっといてくれたことを、中也の家族でもない私ではありますが、彼に感謝申し上げます(笑)。
彼の字は、彼のお人柄を伺わせる、丁寧で優しく美しい字です。実はワタクシ、字フェチなのです。字で、人柄を判断する危ない思想の持ち主。中也の字は昔から大好きでした。私の愛読書、「新潮日本文学アルバム」の中也の巻に、小学生の頃に書いた習字などたくさんの直筆の写真が収録されています。その時からなぞっていたくらい好きな字です。
中也はまことに中也らしい字です。この文学館は、常設展も字フェチにはたまらない、大変興味深い代物でいっぱいです。日本の文豪の直筆がずら〜っと並んでいます。三島は、美しすぎる女字だなぁ、フン、とか、大好きな太宰は、意外にもバランスが悪いなぁなど、思うところがたくさんあるのです。
絶対オススメのエクスポジションです。8月4日までです。
一言アドバイス。思ったより、拝観には時間がかかります。余裕を持ってお出かけくださいな。さもないと、閉館時間に追い立てられるように見る事になりますから。私のように(泣)。
近代文学館の目の前には綺麗で小さな広場があります。何て素敵な空間でしょう。忘れかけていたパリのJardin des plantes(植物園)を思い起こさせます。
噫(ああ)、生きてゐた、私は生きてゐた!
広場を抜けると展望台。
そして隣にはバラ園が!これはまるでバガテル公園のよう。
そして当然、夕食は中華街。もちろん食べ放題。
一緒に行った友人は、食事中に席を立ち、しばらくすると、衣装替えをして再登場しました。なんと、食べ放題に備えて、お腹の締め付けの少ないワンピースを持ってきたのだそう!天晴れ!
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