東京・歯医者さん物語 ~第二回 私はハリマドンナ~
2012年 04月 15日ヘタレで有名な私は、紹介してくれた友人を伴って参りました。
今日はいつもの美術館ではなく、手術専用の建物です。
前の患者さんが長引いているらしく、40分ほど待つようです。
内心「40分、恐ろしがって過ごさねばならないな。」と思いました。発想がネガティブ(笑)。
一人、手術が終わった男性が出てきました。私は彼の一挙手一投足に注意を払い、先生との話を聞き耳たてて聞いていました。だって彼ったら全然平気そうなものだから。ケロっとしているんです。「あっという間でしたね、イージーなケースでした。」「どこを触られてるかも分かりませんでした。」etc. 私は、「ね、痛かった?今痛い?本当は泣きたい?どんなことしたの?」などとインタビューしたいのを堪えるのに必死でした。
すると院長先生がいらっしゃいました。先生にお借りしていたCDをお返しすると、「ちょっとちょっと二階においでよ!」と楽しそうにおっしゃいます。二階は院長室でした。
扉を開くと木目の美しいスタインウェイがいらっしゃるではないですか!それを私奴なぞに弾かせて下さいました。こういう時にサラリと引き流せる曲が必要だなと反省しました。プーランクのノヴェレッテ、いつでも弾けるようにしておこっと(ウキウキ)!
続いて先生は私の身長位ある大きなTANNOYのスピーカーで、マリオ・デル・モナコの全盛期の『アンドレア・シェニエ』のアリア“ある日青空を眺めて”のLPを聞かせて下さいました。

人の声を聞いてこんなに感動したのは初めてでした。ドミンゴ、カレーラス、パヴァロッティ、アライサで育ってきた私が、モナコの声を聞いて打ち震えました。およそ人の声とは思えないほどなのに人の声以外の何物でもないと言う圧倒的なあの響き。まるでトランペットのような黄金の輝き。涙が出るような驚きでした。
続いて先生が高校生の時に衝撃を受けたと言うランパルの精霊の踊りをLPで。

さ、今度はコレッリのトスカだー!と言う頃に、すっかり手術 を忘れていた私の元にお迎えの先生がいらっしゃいました。院長先生は、「これだけだから!」と、まるで駄々っ子のように、コレッリの伝説のCDを聞かせて下さいました。

すっかり夢心地になった私に、先生は
「これで、勇気が湧いたでしょ。」
ですって!
手術室に着くと、いつもの「優しさの権化先生」が手術服を着て待っていて下さいました。お待たせしちゃったみたい。私も手術服に着替えます。無菌状態の手術室に入る前にエアーシャワーを浴びます。恐怖で吐きそう(笑)。
私は上顎の骨がなんとかで(笑、確か浅いとか薄いとか)、下の骨を削り、移植しなくてはなりませんでした。先生は相変わらずお優しく、ことあるごとに励ましながら治療して下さいました。
終わったときの安堵感と言ったら!
付き添いの友人は私の手術中も院長先生と音楽三昧で遊んでいたそうな。私よりも遅れて二人で受付に登場しました(笑)。
私のケースはちょっと大変だったみたい。さっきの男性は何事もなかったようでしたが、私は殴られたような口元でした(笑)。矢吹丈みたい。手術の助手をしてくださった先生が、「初めてなのに大変な治療で可哀想だったわね、もうこんなに嫌なことはないわよ、怖がりって書いてあるのに可哀想だったわね~。」と慰めて下さいました。私のカルテには“怖がり”と書かれているのか……(苦笑)。道理で、誰も彼もが私にスーパー優しいはずです。なんか照れるなぁ。
今日もジャケットを忘れて診察室を出ました。二、三日、顔は腫れるとの事。
一日経って、今朝鏡を見ると、右半分がぷっくりしています。元々ふっくら顔なので、初対面の方は気づかない位です。ま、気づくかな(笑)。でも私は鏡の前でニヤニヤしてしまいました。目の下から顎の下までが腫れ、皮膚が綺麗に突っ張ってツヤが増しています。明らかに左半分とは輝きが違います。
「今日のアタシ、ハリマドンナじゃん。」
と呟き、クスクス笑ってしまいました。
先生、顎関節症で顎があかない中、大変治療しづらかったでしょうに、なだめすかして治療してくださり、どうもありがとうございましたー!!心より御礼申し上げます。m(_ _)m
ハリマドンナより。
東京・歯医者さん物語 完
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