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松本とおばちゃん

ま、そんなこんなで松本で暮らしている間、とても印象に残る心の交流がありました。

私は毎日ホテルから自転車で、川沿いになだらかな坂道を20分かけてのぼり、稽古場へと向かっていました。日差しは厳しく、稽古場に着くと滝のような汗がとめどなく流れます。そこで、稽古場からさらに自転車で10分弱の浅間温泉に稽古前に行くことにしていました。汗をかき、それを温泉で流し、極楽じゃー!となったところで稽古に行く、という生活。「アタシ、ボニデ(フランス語でグッド・アイディアという意。)じゃない?!」と自画自賛の毎日でした。

そんなある日、稽古は18時からだというのに私は14時にはもうすでに温泉につかっていました。お恥ずかしい。そこは初めて行った場所で、温泉と言うよりは温泉風スーパー銭湯のようなところでした。充実した休憩室があるので長い空き時間をそこで過ごそうと入湯したのでした。

例えばマッサージ屋さんに入った途端に眠れてしまうような思い込みの激しい私は、その温泉でさえ「あ~、なんだかお肌がツルツルするなぁ。」なんて感じていました。たまたま私のとなりに入って来たおばちゃんが私に「気持ちいいね。」と話しかけてきました。ついつい調子に乗って「本当ですね。やっぱり温泉は肌もツルツルするし、疲れもとれるでしょうね。」と言いました。するとおばちゃん、「は?!こんなの温泉って言っても90%はただのお湯だよ!循環しているし、殺菌のためにお薬がすごく入っている!」と言い、松本の人でも契約していて鍵がなければ入れない源泉100%の温泉があるからそこへ連れて行ってあげる!という話にまでなりました。私はそのままそのスーパー銭湯から出され、おばちゃんの車でその源泉に連れていかれました(笑)。

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これがその温泉。秘湯と言った感じの入口(爆)。

源泉100%のお湯はさすがに先ほどのお湯とは全く違いました。トロトロとしていてまるで化粧水(しっとり)のようです。しかも48度はあるんじゃないの?!というほど熱いのです。おばちゃんに従ってアチチと騒ぎながらもお湯に30秒位つかり、慌てて出てはおばちゃんと語り合うこと約1時間。外からは蝉の声しか聞こえず、内側は源泉が流れる音のみ。「静かだねー、ものを想うにはとてもいいね。」とおばちゃんが言いました。

その秘湯を出てからもまだ時間があったので稽古前の私に腹ごしらえをさせようと、おばちゃんが自分のおうちへ連れて行ってくれました。おばちゃんは家が近いからといいましたが、実際には山を一つ越えました(笑)。この位は近いと言うのか、などと考えながら美しい風景を眺めていました。

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到着するや否や、自分の畑のトマトをもぎってその場で食べさせてくれました。
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甘くて味が濃くておいしいこと!

お土産に、と大きく成長したトマトを4,5個私にくれました。
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おばちゃんの畑の目の前はこんな風景。風に揺れる黄緑色が波のように見えます。
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今度は冷えたスイカを持って来て一気にジューサーにかけ、スイカ100%ジュースを作って飲ませてくれました。忘れられない美味しさでした。
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あー、最高だねーと笑い合いながら時計を見るとまだ少々時間があります。そこでおばちゃんは松本にも綺麗なところが沢山あるんだよと言って、またドライブに連れて行ってくれました。

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美鈴湖です。穏やかで美しい場所でした。釣り人が数人いました。

さて、稽古に遅れてはいけないと、最初に出会ったスーパー銭湯まで送ってくれました。するとその前の広場で市場が開かれていました。おばちゃんは桃とおやきを大量に買って、私に持たせてくれました。なんだか心苦しく、それでも有難く頂戴し、稽古場へと向かいました。

楽屋では「駒井さん、市場でも始めたんですか(笑)?!」と言われるほど私のテーブルは賑わっていました。

その夜、私はこんなに親切にしていただいたおばちゃんのお名前も連絡先も伺っていないことに気づき、激しく後悔しました。そこでおばちゃんが毎日源泉に通っていること、温泉契約している人たちは自分の行く時間がだいたい決まっていることなど、おばちゃんが昨日話していたこと思い出し、よし、明日からおばちゃんが源泉にくるのを張っていよう!と決めたのでした(笑)。暇だね~。

早速次の日、昨日おばちゃんと出会った時間辺りから稽古の時間までその秘湯の前で待ち伏せていました。その辺りは温泉地と言っても観光客が来るような場所ではない奥地なので、通り過ぎる街の人々が私をはばかりもなく怪しげな視線で見ていました。そういう目で見られるとついついこちらも不審な行動をとってしまう気弱な私(汗)。

待ち伏せを思いついて1日目で会えるとは到底思っていなかったので、そろそろ稽古にいかなくては、と自転車に手をかけた時、なんと昨日の車がやって来たのでした!!私はうれしくて手を振りました。急いでお名前と住所を伺い、稽古場へと喜び勇んで移動しました。

その日の稽古でGP券が配られました。毎年私は父のためにそれをもらいます。今年はなんと数枚余ったというので一枚頂戴し、それをおばちゃんに送りました。郵便がちゃんと翌日届くか分からないし、おばちゃんに予定があるかもしれない、だから来られなくても全然かまわないからね、と書いて投函しました。迎えたGPの日、おばちゃんは来てくれました。感動的なお手紙と共に手作りのプレゼントを持って。公演終了後も客席で待っていてくれたので、退場がてらそちらに行くと、「手紙をもらってうれしかった。本当に感激した、ありがとう。」とだけ言って大きく手を振って帰って行かれました。

世の中には本当に優しい人がいるものだなとつくづく思いました。素直でいつづけることは難しいことだと感じてしまう昨今ですが、この人はずいぶん長い間、素直に、人に優しく、正直に生き続けてきたのだろうなと感じました。その偉業はそれだけで人の心をタッチするのだなと痛感しました。
by komaiyuriko | 2009-09-03 22:36 | 徒然なるままに